その1 『たばこの害』
たばこについてはとても長くなりますので、4回に分けてお話します。
『たばこの害』
たばこが身体に悪いことは、皆さん百も承知ですよね。そこでたばこの害について少し詳しく説明します。
次の4つが身体に害を及ぼすのです。
1、タール 2、Co(一酸化炭素) 3、気管支粘膜織毛細胞障害 4、ニコチン
タールについては、知っているようであまり知らない事が多いのです。これは、道路にまくタールと同じ物です。少なくとも、200以上の発癌性物質が含まれていることがわかっています。
たばこを毎日20本吸いますと1年に約200mlのタールを肺に流し込む状態になります。肺癌にならない方が、不思議なくらいです。現在、肺癌の90%はたばこが原因だといわれています。その他も多かれ少なかれ、たばこが関係しているといわれています。例えば、咽頭癌も95%はたばこが原因なのです。
次にCo(一酸化炭素)についてです。たばこを吸うと、血液中にCoが入ってきます。血液中の赤血球には、本来全身にO2(酸素)を運ぶ役割があります。ところが血液中にCoとO2が同時に存在すると、赤血球はCoの方にくっついてしまい、O2を運べなくなってしまいます。そこで仕方なく赤血球は増え続け、O2を運ぼうとします。それで喫煙者が多血症となるわけです。そのため余計に血液の流れが悪くなり、O2を運べない状態になります。
喫煙者が運動をすると息切れするのは、こんな事が身体の中で起こってるからです。たばこをやめてみると運動がとても楽しく、楽にできますよ。
その2へと続く・・・
※上記の冊子は患者さまに無料で配布しております。
ご希望の方は当院外来までお申し付けください。
その2 『気管支粘膜繊毛細胞障害』
『気管支粘膜繊毛細胞障害』
随分と長ったらしい害名ですが、気管支には汚れた痰を外へ送り出すために、繊毛という毛があります。この繊毛はたばこを吸うとこわれてしまうのです。特にまだ繊毛が成長しきっていない未成年がたばこを吸うと、大人になった時には、肺気腫という病気になります。繊毛は一度壊れたら治りません。どんどん悪くなる一方です。
大人になってからたばこをすって35年が経ちますと、100%肺気腫になります。20歳から吸い始めたとして、55歳までですね。しかし、未成年の時から吸い始めると、何とこれが倍のスピードで肺気腫になってしまうんですね。
この繊毛の働きが悪くなると、痰が出せなくなります。それで、痰を出そうとして強く咳をします。咳をしないと痰が出せないからです。これが喫煙者特有の「ゴホッ! ゴホッ!」という咳なのです。
これが更に進行しますと、肺が膨らんで硬くなります。息を吸うことも吐くこともできなくなります。肺が壊れた状態。これが肺気腫という病気なんです。絶対に治りません。とても苦しいですよ。高山赤十字病院時代、肺気腫の方4名の末期を看取りました。最後は正に「悶絶死」でした。この病気にだけはなりたくないと強く感じました。
実はそれまで私は、セブンスターを1日30~40本吸うヘビースモーカーだったのです。やめなければならないと思っていたものの、なかなか実行できませんでした。1日1本まで減らすことは何度もできましたが、いつの間にか以前の30本吸う生活に戻っていました。どうしてやめられないのか?それはこれからお話しする『ニコチン中毒』だったからです。これはほとんど麻薬と同じです。「イライラするからたばこを吸うんだ」と喫煙者は言いますがこれはニコチンが切れた時の症状と同じなのです。脳にニコチン中枢ができてしまったのです。この中枢はニコチンが切れ始めると『ニコチンをよこせ! ニコチンをよこせ!』と身体に命令を出します。ニコチン中毒者は仕方なくたばこを吸ってしまいます。
また、困ったことに、このたばこには独特の味があります。これに変わる味のするものは、他にはありません。だからこれ程やめにくい物は無いと思いますよ。
その3へと続く・・・
その3 『未成年者の喫煙』
『未成年者の喫煙』
最近、未成年者の購入防止のために、自動販売機でのたばこの購入には成人識別ICカード(tasupo:タスポ)が必要になりました。一番大切なことは、たばこを覚えさせないことではないでしょうか。特に未成年者にですね。実際に親がたばこを吸っていれば、子供はまねをしたがるものです。だからこそ、親がタバコをやめるよう努力してみませんか。自分のためだけでなく、子供のためと思えば、やめられそうではないでしょうか。
たばことはニコチン中毒と生活習慣の両方です。だからやめにくいのです。また、先進国の中で、日本ほどたばこに甘い国はありません。アメリカではほとんどたばこを吸える場所がありません。もちろん灰皿なども置いてありませんから・・・。
『副流煙の害』
たばこの害で最も深刻なのは副流煙による害です。副流煙とはたばこから直接立ちのぼる煙です。フィルターを通した煙(主流煙)の50~100倍の害があると言われています。すなわち喫煙者の周りで起こる害なのです。日赤勤務時代、夫がかなりのヘビースモーカーで、その奥様が肺癌で亡くなられた症例を診ました。その肺癌は、たばこを吸う人にしかできない扁平上皮癌だったのです。自分のかわいい子供たちが今現在、副流煙の餌食になっているのですよ。
たばこは嗜好品だと言われる方もありますが、嗜好品にしてはあまりにも害が多過ぎます。アルコールとは全く違うのです。
次回は「タバコをやめる方法について」私の経験を紹介します。
次回、最終回へと続く・・・
最終回 『たばこをやめる方法』
私の経験を紹介しましょう。
私がたばこをやめた頃には、まだニコチンガムもニコチンパッチもありませんでした。自分の意志しかありません。この"意志"はガムもパッチがある現在も基本的にはかわりません。まずは、たばこの害を知ることです。それから、どうしてやめるかという理由付けをしっかりすることです。肺癌になりたくないとか、肺気腫になりたくないとか、いわゆる死ぬような病気になりたくないというのも一つの理由になります。その頃、肺気腫で亡くなられた方を看取りました。当時私は今よりも痩せていました。痩せているほうが肺気腫になりやすいのです。自分もこのままではいつかきっと・・・。この病気にはなりたくないと感じてはいました。そして子供が生まれて半年程の頃、たまたま私は風邪をひき、その時、たばこを吸ったところ、とてもまずく感じたのです。これはチャンスかも・・・。「今日からたばこをやめるぞぉー!」と勢いで宣言してしまったのです。私は男は宣言した限りは、絶対実行しなければならないという考えでしたので、たばこをやめざるを得なかったのです。でも子供が生まれたというとても良い理由があったのも、実行できた要因だと思います。
それ以後、1本も吸ったことはありません。体重は8kg程太りましたが、簡単なダイエットと、スポーツですぐに元の体重に戻りました。さらに、筋肉は増え、体力は数段UPしました。今ではどうしてあんな物を吸ったのだろうと不思議に思うくらいです。
他にたばこをやめて良かったことは、何と言っても根気強くなったことです。何かを始めるとずーっと続けられるのです。運動中も息が切れにくくなりました。そして何より食事がおいしい!。これは匂いに敏感になったからではないかと思います。とにかく良いことだらけです。
禁煙して3日目位が一番苦しいような気がします。あとはどんどん楽になっていきます。一度チャレンジしてみませんか?。今、薬局にはニコチンガムが、クリニックにはニコチンパッチもあります。
チャレンジする際も、あまり構えず、せっかく禁煙を始めたのだから、もう1日くらいたばこを休んでみようかなぁ・・というように楽にとらえた方が良いと思います。
すでに肺気腫になってみえる方は、現在の医療では完全に治ることはありません。しかし、たばこをやめれば、それ以上進行しません。中には身体を鍛えて症状が軽くなったという方もみえます。
4回にわたって禁煙についてお話してきましたが、現在、社会全体がTASPOの導入(未成年者の喫煙防止)や、路上喫煙禁止区域の拡大(喫煙できる場所の制限)などで、No Smoking!への道を歩きはじめました。少々遅い位ですが、すばらしいことだと思います。たばこを吸っているみなさんもこれを機に禁煙をしてみませんか?