透析と心のケア

透析と心のケア

1)患者さま・ご家族の精神的苦悩とは

 透析患者さまやご家族は、そのご病気のためにさまざまな苦悩が生じてまいります。 特に患者さまにとっては透析前、初期透析、長期透析、終末期などの局面でさまざまな身体的、心理的苦痛がでてきます。それが高ずると透析治療が影響して精神症状を生ずることさえもありうるのです。 takakuwa3syou.JPG
 私が透析室で出会う患者さまには、不安や絶望、時には希死念慮(死にたい)など複雑な精神的な苦悩を訴える人もいます。そういう患者さま自身の問題と、それに付き添うご家族の苦悩は絶大なものがあります。特に終末期になればなるほど、その苦悩は増大するのです。 takakuwa2.jpg
また逆に、その透析治療をすることによって、自分の生き方を再検討し「生きる意味」を見い出された患者さまも沢山います。上手に透析治療と共存し、自身のQOL(いのちの質)を高めることも可能なのです。 一般に透析医療は、父性的な治療に重点をおいた身体 takakuwa1.JPG 的ケアと、精神的なケアも含めた母性的な看護、ケアが必要といわれていますが、あまりにも数値的(EBM)な判断を優先しすぎると、患者さま自身の内面的な訴えを見逃すケースも少なくないのです。そういう意味では、家族だけでなく医療スタッフも全人的ケアを目標としたスピリチュアルケアの学習が重要であることは言うまでもありません。



2)スピリチュアルケア

スピリチュアリティおよびスピリチュアルケアという言葉が、世界を駆けめぐるようになったのは、WHO(世界保健機関)の1998年に開かれた101回目の理事会セッションで、憲章の「健康」の定義を「健康とは身体的、心理的、社会的、スピリチュアル(physical,mental,social,spiritual)に完全に望ましいダイナミックな状態であり、決して病気や障害がないという意味ではない」に修正するよう、理事長の検討を依頼したことからです。   スピリチュアル(spiritual)の用語の解釈などは、人によってまちまちですが、スピリチュアルな課題は、一般の身体的な苦痛を図る数値とは、異なる意味からもディストレス(distress)=苦悩という捉えかたもあるといえます。苦痛にするか苦悩にするかは、その人の内面的な痛みの意味づけによって異なると思われます。人がこの世で「生きる意味」を考えることが重要です。キリスト教関係者はスピリチュアルを「霊的」と訳すことを厭わないのですが、日本では「霊」という言葉は哲学的に内面化された方向をとらず、終始宗教的、あるいは民族的な見地から使用されてきたもので、スピリチュアルケアをそのまま「霊的ケア」とするには少し無理があると思われます。

3)いのちを見守るスピリチュアルケア

いのちのゆくえをどう考えるか、生きる意味を考えるために、スピリチュアルケアの視点から具体的に述べると次の4つのいのち観があります。
takakuwa4 omake.JPG 1 肉体的生命を希求する
2 死後における生命の永存を信ずる
3 自己の生命を,それに代わる限りなき
  生命に託す
4 現実の生活の中に永遠の生命を感得する

多様な価値観をもつ人に対してのスピリチュアル.ケアの在り方は、西洋的ケア論だけをもってしては、十分であるとはいえません。近代の西欧型ホスピスはキリスト教などの二元論的世界観を背景として育ってきました。しかし日本人の死生観は、
img0009.jpg インドの「梵我一如」(宇宙と我とは一体なること)に源流をなしつつも、日本独自の自然観や文化を育ててきたのです。それは、一元論的世界観であり、自己の「いのち」を他者や外界と対立的な関係として観ていくことではなく、さまざまな思考や価値観を認め、自己と他者が、全体の中に融合している、もしくは統合的に存在するという多神教的価値観です。その思考が日本人の音や音楽の領域や鑑賞にも大きな影響を及ぼしていると言えましょう。

高桑内科クリニック
   スピリチュアルケアワーカー
  大下 大圓

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