透析装置の緊急時遠隔監視
スタッフの院内不在時の透析装置の異常を監視
高桑内科クリニックはサテライト型の外来専門の透析施設です。従って業務終了後や日曜日等はスタッフは誰も滞在しておらず、完全無人となります。建物全体の防犯対策としては、オンラインセキュリティのガードシステムを採用して、不審者の侵入など異常が発生すると、ALSOKガードセンターが異常信号を受信。ガードマン(警備員)が当院に急行し、対応していただけます。
従来の防犯・監視カメラは、アナログ式が一般的で、映像機器は回路の設計や調整が難しいばかりか、運用に際しても扱いに技術的な知識が必要でした。また小型化も難しいので機器が大きく、何より高価という点が導入を遅らせていました。しかし近年、AHDカメラというアナログカメラで使用している同軸ケーブルを使用して、ハイビジョン画質にすることが出来ることカメラの出現で一気に導入しやすくなりました。主な特徴は、①他のカメラに比べて安価、②200万画素以上のフルハイビジョン映像、.③遠隔監視ができるというところです。
今回、我々はこれらの機器を応用し、夜間休日等スタッフ不在時における多人数用供給装置やRO装置の事後洗浄や消毒中、透析準備中などに起こりうる異常(故障)をいち早く知らせる遠隔監視システムを構築しました。
方法はまずAHDカメラを4台設置し、専用のレコーダー(4ch)に接続、それを当院のネットワークに接続することでAHDカメラの動画映像を外出先でリアルタイムにスマートフォンで閲覧できるようにしました。次に透析装置の異常検知・通知は、レコーダーのモーション設定による動体検知時のアラーム設定を活用しました。動体検知方法は一画面を192分割されたエリアから監視ポイントを部分的に選択できます。今回は装置の警報ブザー出力から並列にLEDを設置してそこを監視ポイントに設定しました。警報発生時LEDが点灯し、動体監視がそれを検知する仕組みです。アラーム出力方法はEmail送信を活用、当院のメールサーバを介してME3名のスマートフォンに即座にエラーメッセージを送信します。メールを受け取ったら装置の異常状況をスマートフォンで動画映像を確認し、警報内容も画面から読み取ることが可能(高画素の恩恵)、そして緊急来院し速やかに対応します。
朝出勤したら装置が「ピーピーッ」と鳴って停止していた・・ましてや消毒工程中のエラー・・・なんてことがあったら大変です。消毒液の洗い流しから準備に2時間を要します。実際にはそんなトラブルは今の時代、装置の性能からみてもほとんどありません・・がゼロでもありません。本システムは毎朝、確実に定時刻に透析を始められるお守りみたいなものと思っております。導入コストは驚くほどリーズナブルです。。マスプロ フルハイビジョンAHDカメラ・レコーダー カメラ本体と録画装置、ケーブル類などを合計しても、設置するカメラの台数にもよりますが導入費用は10万円程です。透析装置の部品代より安いですね。
本システムの仕組みは在宅医療にも簡単に活用できます。例えば家庭透析において、透析中の装置トラブルや患者さんの異変などリアルタイムに高画質な映像を確認できるので、管理側も確実な指示を介助者にすることが可能になります。安全性が向上し、ますますこの分野が発展する事と思われます。
通常監視
↓
警報発生
ME各自のスマホに自動的にメールでお知らせ
↓
映像確認
スマホ映像の拡大で警報内容の把握
↓
余裕をもっての対応が可能
透析業務支援システム
透析業務支援システム
高桑内科クリニック臨床工学科では、平成10年院内LANを構築したことに併せて、分散型コンピュータシステムの一つで、アプリケーションソフト、データベースなどの情報資源を集中管理する「サーバ」と、そのサーバの管理する資源を利用するコンピュータである「クライアント」が接続されたコンピュータネットワーク、いわゆる「クライアントサーバシステム」を確立しました。そして患者情報や検査、投薬、透析条件などの記録をデータベース化して管理を行う当院独自の透析業務支援システムを開発しました。市販のソフトを用いて自作することで、施設の需要に応じたシステム(無駄のない)を作ることができるほか、メーカー等の支援システムに比べ、コストパフォーマンス的にも大変優れています。近年、当院のようなサテライト透析施設においても患者さんは高齢化、重症化しております。したがってデータの一元管理は、写しなどの手書き作業の単純なルチン業務を減らすことができ、ヒューマンエラーを無くせるばかりか、空き時間を様々な患者ケアにまわすということが可能となります。
患者基本情報 |
基本情報(氏名・性別・生年月日・住所) 病歴情報(既往歴) 連絡先情報(連絡先・家族構成) 転入転院履歴・入院・外来履歴 透析情報・血液感染情報 バスキュラーアクセス情報 保険者証情報 禁忌情報 |
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機能 | 検査管理 | 自動インポート・データ抽出、グラフ化機能・貧血評価・骨代謝評価 検査スケジュール管理・検体ラベル印刷機能 透析効率他、TACurea、PCR、GNRI、塩分摂取量etcの自動計算機能 |
体重管理 | 透析前、及び後体重は、体重計のRS-232C出力から、Accessにダイレクト自動入力 | |
指示管理 | 透析指示(処置、注射等)の機能 検査指示(CTR、エコー等)のスケジュール機能 定期処方薬のオーダリング機能・薬剤情報説明書簡単印刷 |
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透析準備 |
本日の処置リスト一覧・使用備品、薬剤出力 | |
透析記録 | 透析記録自動印刷(前体重測定時連動、目標除水量自動計算出力) |
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患者紹介 | 透析サマリー、診療情報提供書、検査履歴etc自動出力 |
主な機能紹介
検査データ自動インポート機能
当院では、血液検査関係は全て外注(株式会社BML)で行っており、測定結果は伝送プログラムを通じて送られてきます。本システムでは、それをテキスト化して抽出し、データベースに自動インポートする機能を持たせました。
蓄積されたデータはグラフや表にすることで、様々な角度から視覚的に分析できます。併せてデータから透析効率をはじめ、nPCR、CrINDEX、TACurea、GNRI、塩分摂取量、補正化Ca、鉄飽和率など様々な計算を自動的に行ってくれるので、診療支援に役立ちます。それ以外に希望のデータをEXEL等でに容易に出力できるので、看護師さんらによる受け持ち患者さんの管理にも適しています。また本システムは患者個人個人の検査スケジュール機能を有しており、その時々の項目別に検体ラベルを自動印刷してくれます。
体重データダイレクト入力機能
透析前後の体重測定については、各透析機器メーカーが販売している支援システムでは体重の自動入力などやってくれます。しかし一般的な透析室における体重測定は患者さんが自分で計って、それをプリント出力してベッドサイドで除水計算をするというのが基本ではないでしょうか。当院の支援システムでは、体重計(RS232C出力対応)の計測データを、直接、Accessにダイレクト入力することを可能にしました。患者さんは入室の際の手順は以下のようになります。
1、体重計横に設置した液晶タッチパネル上に表示した、自分の名前をタッチします。(透析スケジュール機能により管理されている本日治療を行う透析患者名が、パネル上に作られた透析室見取り図のベッド位置に表示されています)
2、体重計に乗ります。測定結果はシリアル通信にて画面に表示されます。併せて本日の基礎体重に対する増加量も表示されます。
3、透析記録印刷をタッチすることで体重、本日の目標除水量等が計算された本日の透析記録カルテが印刷されます。データは随時サーバに蓄積され、透析効率の計算などに用いられます。
指示管理機能(各種帳票出力)
「患者基本情報」、「注射・処置指示」、「定期処方薬指示」、「血液定期検査指示(スケジュール)」、「心・腹エコー、胸部X-P、心電図検査等指示(スケジュール)」などの指示が簡単なキー操作で可能。その指示は全ての帳票に反映されます。
主な帳票出力
基本情報関連・・「診療情報提供書」、「透析連絡表」、「透析記録」、「定期薬剤情報提供書」
※患者基本情報からの既往歴、定期処方薬指示からの定期薬リストは診療情報提供書、透析連絡票に反映する。透析記録に即座に反映される注射処置指示等は、特に注射日だけ透析記録に出力されるため、ESA療法(特にネスプ)の隔週注射指示などへの対応には便利である。処置リストも同様である。またエコーなどの事前予約済みな必要な検査はスケジュール入力により、検査日直前の透析記録にてお知らせしてくれるなどの親切設計としました。
検査関連・・・・「血液検査データ履歴」、「骨代謝評価報告書」、「貧血評価報告書」、「透析効率評価」、「バスキュラーアクセス管理(エコー画像)」、「血液検査検体ラベル出力」
※貧血評価レポートは鉄飽和率など自動計算を含めた最新のデータから、過去何カ月前(任意指定)まで遡って出力し、併せて現在のESA療法状況もレポート化してくれるので、診療支援におおいに役立っている。骨代謝レポートにおいても同様である。患者個人個人の血液検査項目もスケジュールすることで、採血日に出力された検体ラベル=採血患者であり、それも項目別にシールで印刷されるので、それをスピッツに貼り付けるだけで検査落ちは防ぐことができます。
動作環境
サーバシステム
OS:Windows Server 2012 R2 Essentials
DBシステム:SQLServer 2012
クライアントシステム
OS Windows11 Professional
RDB:Access 2016
透析装置システム
きれいな水
高桑内科クリニックで使われる透析用水は、下呂市と高山市にまたがる飛騨一ノ宮の位山(くらいやま)に源を発しています。位山は中部日本の分水嶺となっており、ここで湧き出た水は、飛騨川、長良川を通じて太平洋に注ぎ、宮川、神通川の流れは日本海に注いでいます。毎秒何万トンを生む水源の、お膝元にある高山市はどれだけ 水がキレイかおわかりいただけたでしょうか。特に透析液の清浄化を実現する上でかかせない、RO装置、限外濾過フィルターなどは、あくまで濾過による精製です。阻止率100%の限外濾過フィルターは存在しません。従って透析液の清浄化には、限外濾過フィルターの入口側濃度値が重要であることは言うまでもありません。入口側、すなわち原水のエンドトキシン値が年間を通して低値を示す当院では、RO装置による処理だけで、十分に感度以下になります。肝心なのは汚染巣を作らない配管の管理と的確な消毒で維持管理に努めることです。豊富な水資源に感謝ですね。
システム紹介
OnlineHDFや間歇補充型HDF(I-HDF)等、多様な治療法に対応:TR-3300M(東レ社製)
血流モニター(BV-PLUS)搭載により透析中の血圧低下や除水困難などに対応:DCS-200Si(日機装社製)
血流モニター(BV-PLUS)搭載
BV-PLUSの機能
①循環血液量変化率(ΔBV)の測定
②ΔBVリファレンスエリアの表示
③Plasma Refilling Rate(PRR)の算出
※血管外から血管内への水分の移動速度
④VA再循環率の測定
⑤除水速度自動制御(BVーUFC)
※予め設定したΔBVに実際のΔBVが近づくように除水速度を自動制御
⑥体外循環血流量(LDQb)の測定
※血液回路に近赤外線レーザー光を照射し、その反射光から求められる血球成分の移動速度を基に算出した血流
⑦ヘマトクリット値の測定
極低濃度薬液封入システム RO装置:TW-R(東レ社製)
RO水ラインを極低濃度の次亜にて朝まで封入
RO モジュール出口以降のRO水ラインを極低濃度の薬液(次亜塩素酸ナトリウム:約1ppm)にて封入します。RO水の汚染原因のひとつである2次汚染防止を発揮し、安全かつ安定的にエンドトキシンを低値に維持できる自動化システムです。多人数用供給装置(TC-R、TC-HI)、A末溶解装置(TP-AHI-R)、B末溶解装置(TP-BHI-R)の入口まで自動で封入します。
いざという時に安心のフェイルセーフ 多人数用透析液供給装置:TC-HI、TC-R(東レ社製)
当院では装置故障時などの緊急時対応におけるメーカーのメンテナンス担当は東レ名古屋支店です。どこの施設も突然のセントラルの故障による透析STOPは、絶対避けなければならないという事は同じだと思います。しかしここは飛騨高山、メーカーが駆け付けて対応してもらうには距離的にも最低3時間はかかります。故障内容にもよりますが大きな透析中断を避けるために、今回わずか30床の小さな施設ですが装置更新の際にあえて供給装置の1台追加という形を選択しました。通常は2台で半分ずつに供給しておりますが緊急時には故障した装置を停止させ、もう一方が透析室全体をカバーする、つまり供給装置のフェイルセーフの実現です。これは患者様らに大きな安心を与えることができました。機器を管理する我々も、年1のオーバーホールなども実施機をいつでも停止させ、部品交換などが容易にできるようになりました。
配管のポイント
日常高濃度の消毒される配管の効果の維持、有機物の除去 ⇒ クリーンホースの採用
適正な配管口径の選択 ⇒ レイノルズ数<2320以下は完全層流
デッドスペースの排除(接続部、分岐部) ⇒ レデュース継手の採用
不要なバルブの削除 ⇒ 配管ルートの質素化
洗浄・消毒方法
洗浄・消毒は使い分けています。
現在の人工透析装置に対するベストな洗浄・消毒方法は何か?を考えた時、当院では部材への影響をまず念頭に置き、目的を絞って実施します。従って洗浄・消毒パターンは目的にあわせて2通りのパターンで行っています。
システム環境
多人数用透析液供給装置に東レ社製:TC-HI、TC-Rの2台、患者監視装置には同じく東レ社製:TR-3300、TR-3000MA、TR-3000Mなど計31台設置
通常時の洗浄・消毒パターン
月・水・木・金
次亜塩素酸ナトリウム+プレミアムマックス(ANテック社)
※次亜塩素酸ソーダに添加し、強い乳化分散力により蛋白、油脂、糖脂質などの有機物を短時間に分散し、排液とともに洗い落とすことが出来る。
主にタンパク除去を目的とした洗浄・消毒スタイルです。
混合薬液濃度設定
高濃度薬液洗浄:次亜濃度(末端400ppm)、プレミアムマックス濃度(末端300倍)
工程 | 前水洗 | 次亜洗浄 | 封入 |
時間(min) |
60 | 30 | 翌朝まで |
火・土
※キレイたー(フェニックス社)+次亜塩素酸ナトリウム+プレミアムマックス(ANテック社)
※透析液ライン及び透析装置内に沈着する炭酸カルシウムの除去を、従来の酸性 (pH5.0以下) 剤ではなく、一般的な下水道排水基準値に適合する弱アルカリ性 (pH9.0未満)溶液として作製された薬剤です。
当院では週に2回、炭Caなどのスケール除去の追加洗浄を行っています。
濃度設定
キレイたー濃度(末端100倍)
工程 | 前水洗 | 酸洗 | 封入 | 前水洗 | 次亜洗浄 | 封入 |
時間(min) |
60 | 20 | 60 | 60 |
30 | 翌朝まで |
従来の次亜と酢酸のみの洗浄に比べ、部材への影響(液漏れ、錆等)はほとんどありません。部品のオーバーホール時も、ステンレス等は新品同様の輝きを保っています。特にしon-lineHDFなどハイパフォーマンスな透析が主流の現在、装置によっては排液側シリコンチューブ等への異物の析出多くみられることがありますが、これらの成分は透析液成分(ブドウ糖)、生体成分(タンパク質)由来の有機化合物と、次亜などが発生源となる塩化物(塩)の混合物であるという分析結果がでました。現在、プレミアムマックスの強い乳化分散力によりこれらの異物の付着はほぼなくなりました。
透析液という性質上、これが1番という洗浄・消毒方法はないと思います。タンパク溶解のためのアルカリ溶液とスケール(炭Ca等)溶解のための酸洗浄、お互いに相反する性質の洗浄に加えて、消毒効果を求めなければなりません。全てを完璧に補える洗浄剤はおそらくないと思われます(特に1液製剤)。あまりに強い効果を求め過ぎてもリスクとして錆、腐食など部材損傷が発生しやすくなります。錆、腐食箇所はデッドスペースとなって細菌の巣窟になるとも言われています。
当院では、部材に優しい薬液設定、消毒パターンで透析液の水質を保護を前提に、仮に異物の沈着等が見られた場合でも、その時点でスポット的に洗浄剤の変更やパターンを変えるなどして対応する手段をとっています。